中学生が夏休みにヒッチハイクで一人旅に出た話

中学生がヒッチハイクで一人旅に出た話です。

ハロー通訳アカデミー合格祝賀会に参加しました。

本日は、通訳案内士受験予備校であるハロー通訳アカデミー(現在は閉校)の、

 

植山源一郎先生主催の、合格祝賀会に参加してきました。

 

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会場は新宿のハイアットリージェンシー東京です。

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通訳案内士試験に合格して以来、その後、エージェントとしてアサイナーになってからも、ずっとご招待いただいているのですが、今年も参加させていただきました。

 

今年は、合格者でもエージェントでもないのですが、ハロー主催のセミナー講師などもやらせていただいた関係で、ご招待いただけました。

 

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ハローを閉校した後も、通訳案内士の地位向上の為、日々ご尽力いただいている植山先生です。

 

まだまだお元気で、パワフルに活動していらっしゃいます。

 

植山先生のお兄様で、若き頃ドナルド・トランプにインタビューした唯一の日本人であり、

 

トランプ大統領についての本を二冊翻訳出版されている、国際経営コンサルタントの植山周一郎先生にもお会い出来ました。

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今年は、参加者の人数は約140名ぐらいと、例年よりは少なかったようですが、私がセミナー等でアドバイスさせていただいた方で、

 

みごと定期観光のエージェントに採用された通訳案内士の方達とも再会でき、とても有意義な時間でした。

 

皆さんの熱気にあてられて、合格したばかりの時の気持ちを思い出すことが出来ました。

 

明日からまたインハウス通訳として専門用語との格闘ですが、新合格者の方たちに負けないように頑張ろうと思います。

 

インハウス通訳修行記 ④

インハウス通訳として入社して、2週間目が終わりました。

 

この間、請求書の翻訳をしたり、

 

工場の体制監査にくっついて行って製造の現場を見学させてもらったり、

 

お客様との会議に参加させてもらったり、

 

製品の検査室で検査機器の操作方法などを教えていただいたりと、

 

かなり勉強させてもらっています。

 

お金をいただいて勉強させていただけるというのは、非常にありがたいことです。

 

ところで前回、ISO/TS16949の対訳本を読み込んでいて、

 

カタカナで「サイト」や「サイト審査」と訳してあるので、

 

webサイトのことかと思って読んでいくと、どうも理解出来ないので、

 

「現場」や「現場監査」の誤訳なのではないかと書きましたが、

 

あれは決して誤訳ではありませんでした。

 

審査用語で「サイト」という言い方をするそうです。

 

専門用語が多くて、かなり大変です。

 

会議などでもそうですが、朝礼、終礼で皆さんが発言される内容ですら、

 

理解できないことが多々あります。

 

日本語ですら理解できないものを、英語で伝えようとするのですから、なおさら大変です。

 

ちなみに、ISO/TS16949の対訳本も、日本語の方を読み込んでも内容がわからないので、主任に解説本をお借りしました。

まずは、この日本語の解説本でインプットした方がよさそうです。

 

 

インハウス通訳修行3日目

入社3日目となる金曜日は、研修(というか勉強)に集中出来る環境でした。

 

ひたすら、ISO/TS16949の対訳本を読み込み、

 

使える英語表現を拾い集めてエクセルで表にし、

 

単語、コロケーション、表現にそれぞれ日本語と対応する英語を書き、用例も併記して、後々検索しやすいようにしていきました。

 

こういうのを用意しておかないと、また突然翻訳しろと言われた時に焦りますからね。

 

工業英語辞典とか技術英語辞典など、会社にありそうなものですが、

 

今まで社員が自己流で翻訳してきたようで、そういったノウハウの蓄積がほぼ皆無。

 

私の仕事は、環境の整備から始めなければならなそうです。

 

自分で買うにはお高いので、慣れてきたらお願いしてみようと思いますが、

 

それまでに何冊かは自腹で用意しておいた方がいいでしょう。

 

今、手元には工業英検用のテキスト類くらいしかないので、

 

とりあえずは、このISO/TS16949の対訳本が頼りです。

 

しかし、読み込んでいくと誤訳らしきものを発見。

 

カタカナで「サイト」や「サイト審査」と訳してあるので、webサイトのことかと思って読んでいくと、どうも理解出来ない。

 

文脈上、おそらく「現場」や「現場監査」の意だと思うのですが。

 

多分、かなりしっかりした翻訳者の方が訳されているのだとは思いますが、

 

それでも専門知識がないとこのような誤訳は生まれてしまうのでしょうね。

 

私も気をつけようと思いますが、

 

ベテランでもこのような誤訳はあるものなのだと、

 

少し安心した気もします。

 

 

 

 

インハウス通訳修行2日目

今日は、ネジの冊子とQC検定4級の勉強をして、

 

その後、規格を読み込んで行こうと思っていたのですが、

 

昼頃になって、突然、

 

「アメリカに送る製品の作業手順書を英訳してくれ!至急!今日中に!」

 

というミッションが発生!

 

おいおい、

 

まだ全然製品知識とかないぞ。

 

そもそも、日本語で書いてあることも理解出来ないのに。。。

 

しかも、ちょいちょい、

 

「フィリピンオフィスに送るemailを英訳してくれ!」

 

とか、

 

「代わりに海外に電話をかけてくれ!」

 

とかありました。

 

でもまあ、先輩に製品のことを聞きながら、

 

何とか今日中に完成させることが出来ました。

 

早く知識を身につけないとなぁ。

 

インハウス通訳になりました。

これまで、通訳案内士(英語)資格は持っているものの、

 

その名の通りガイディング業務しかやったことはなかったのですが、

 

この度、ご縁があった自動車関連会社に就職が決まり、

 

インハウス通訳として入社することになりました。

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初出勤でいろいろなレクチャーを受け、かなり疲れました。

 

もともと、別に通訳者を目指していたわけでもないですし、

 

通訳訓練も特に受けたことはないので、

 

これから手さぐりでの業務となります。

 

ただ、通訳者になりたいと思っている方の為に、

 

通訳訓練校に通う以外にも、こんな方法もあるよ、と、

 

何か参考になればと思い、

 

これから入社後の勉強のことを書いていこうと思っています。

 

とりあえず、初日としては、全く業界知識や製品の知識がないので、

 

数か月は品質保証部に回され、

 

製品や規格、マニュアルなどの翻訳をすることとなり、

 

その中で専門知識を身に着けていくという流れになりました。

 

まずはISO/TS16949なるものの熟読から始めます。

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ヤンキーの生態調査

かくしてヤンキーになる決意をした僕だったが、肝心のなり方がわからない。

 

とりあえず、休み時間に勉強している沢勉に聞いてみた。

 

「沢勉、ヤンキーって、どうやったらなれるだ?」

 

塾の宿題を必死でこなしている沢勉には、

 

「知らんよ!そんなこと!ぼくは勉強で忙しいんだよ!

 

こないだ塾を休んでショウくんのバカみたいな調べ物につき合わされたもんで、

 

宿題がたまって大変なんだ!

 

グレたきゃ、勝手にグレりゃあいいじゃんか」

 

と言われてしまった。

 

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「ちょっと待ってや。ひとりでグレるのは問題があるに」

 

「問題って何よ?」

 

「ひとりで勝手にグレたりしたら、

 

生意気だ!

 

目立ってんじゃネエ!

 

って速攻でケンカ売られて、ボコボコにされそうじゃんか」

 

「そりゃ、そうだらあ」

 

「これを全部倒せば、一躍ヤンキー界期待のルーキーだ。

 

だけん、俺はケンカなんてしたこんないし。

 

スポーツも得意じゃないし、多分そこまでの戦闘能力はないら」

 

「ショウくんは、ただのデブだもんね。」

 

「うるせえ。そしたらさあ、そんな危ない方法は取れんじゃん。

 

なるべく安全にヤンキーになりたいだもん、俺」

 

「知らんよ。もう、勉強するから、あっち行って!」

 

沢勉に突き放されて、仕方なくひとりで考えることにした。

 

どんな世界でも、その世界に入るためには、正当な手続きが必要だ。

 

それはヤンキーの世界とて例外ではあるまい。

 

こう思った僕は、まずヤンキーの世界に導いてくれるであろう水先案内人を探した。

 

休み時間の教室を見回して、クラスの皆を観察した。

 

すると、水先案内人になってくれそうな人は、すぐに見つかった。

 

制服を着崩し、普通とは少し変わった髪形をしている、リキヤくんという少年がいたのだ。

 

明らかにクラスの中では浮いた存在だった。

 

彼は、いつもけだるそうな顔をし、

 

椅子をシーソーのようにグラグラさせながら、

 

アホのような顔で授業を受けていた。

 

そして、たまに先生を茶化したり、

 

突然教室から出て、

 

ボケ老人のように校内を徘徊したりしていた。

 

僕がヤンキー漫画で得た情報をもとに判断すると、彼は、ヤンキーの一種だと思われる。

 

彼と仲良くなれば、ヤンキーになるための手続きの詳細を教えてくれるだろう。 

 

だが、いまひとつ確証が持てなかった。

 

話しかけてみて、ヤンキーではなかったら、彼はただの頭のおかしな人だ。

 

そんな人とは関わりたくないし、うかつに、

 

「ヤンキーになりたい」

 

なんて言ったら、こっちが白い目で見られかねない。

 

確証を得る必要がある。

 

そこで、僕は一計を案じた

  

当時、僕らのクラスでは、

 

「命令じゃんけん」

 

というものが流行っていた。

 

いわゆる

 

「王様ゲーム」

 

をじゃんけんでやるもので、

 

負けた人は、勝った人の命令に必ず従わなければならないという遊びだ。

 

僕は、これを利用して、リキヤくんが本物のヤンキーかどうか、確かめようと考えた。

 

まず、沢勉が休み時間に勉強していない日を選び、彼を誘った。

 

「沢勉、命令じゃんけんやろうぜ」

 

「えー、でも僕、そういうのやったことないでさあ」

 

「まあいいじゃんか。流行ってるみたいだし、ちょっとやって見よう」

 

「うーん。じゃあ、ちょっとだけ」

 

何とか、沢勉を命令じゃんけんに引きずり込むことには成功した。

 

あとは、じゃんけんに勝ちさえすれば、真面目な沢勉は命令どおりの行動をするに違いない。

 

仮にじゃんけんに負けても、気の弱い沢勉の命令なんて、タカが知れている。

 

さっそく、僕らはじゃんけんを始めた。

 

「じゃあ、いくぞ。命令じゃんけん、じゃんけんぽん!」

 

僕が出した手はチョキで、沢勉の手はパー。僕の勝ちだ。

 

「ああ!やられた」

 

「よっしゃ!」

 

「うええ、かんたんなのにしてよー」

 

「大丈夫、大丈夫。

 

じゃあ、命令するぞ。

 

あそこにリキヤくんがダルそうに座ってるだろ?

 

彼のところに言って、

 

『喧嘩上等』

 

と言って来るんだ。

 

ただし、命令されたってことは言っちゃだめだ」

 

僕が読んだヤンキー漫画では、ヤンキーの多くは

『喧嘩上等』

(「喧嘩をお売りくださるお客様には、それ相応のおもてなしをさせていただきます」の意)

 

をモットーとし、このフレーズに過剰に反応する。

 

売られた喧嘩に応じないことは、彼らのメンツに関わるらしい。

 

だから、もしリキヤくんが正当な(?)ヤンキーであれば、

 

必ず明白な反応を示すに違いない。

 

一緒にヤンキーの生態について調査した沢勉は、もちろん、そのことを知っている。

 

案の定、

 

「えええ!いやだよ!そんなこと言ったら、とんでもない目に合うじゃんか!」

 

と、頑なに命令を拒んだ。

 

しかし、なにがなんでも沢勉を命令に従わせなければ、この計画は失敗に終わる。

 

「命令じゃんけんに従わないってのか。

 

一度決めたルールを守らないなんて、それでも男かよ」

 

「そ、そんなこと言ったって、命令が無茶苦茶だら」

 

「沢勉は、いつも勉強ばっかりして、真面目そうにしてるくせに、

 

人との約束は守らないのか。

 

それじゃあ、ただのガリ勉じゃんか。

 

そんなの全然真面目じゃないし、かっこわる!」

 

「うう…。」

 

沢勉は、勉強が出来るだけに、勉強だけのガリ勉と見なされることを極端に嫌う。

 

僕は、そこにつけこんだ。

 

「ほら、早く。

 

やらないのかよ。

 

ほんとにただのガリ勉なんだなあ」

 

「わ、わかったよ。やるよ」

 

沢勉は、思いつめたような顔で言った。

 

「おおー、それでこそ沢勉。やってくれると思った」

 

こうして、沢勉はリキヤくんに

 

『喧嘩上等』

(「喧嘩をお売りくださるお客様には、それ相応のおもてなしをさせていただきます」の意)

 

を言ってくることになった。

 

そもそも、自分で試せばいいのに、人を使おうと言うのだから、一番男らしくないのは僕なのだ。

 

しかし、このときの僕のコンセプトは

 

「いかにして安全にヤンキーになるか」

 

なのだから、こればっかりはいたしかたがない。

 

自分の卑怯なやり方に、若干うしろめたさを感じながらも、

 

僕は、沢勉の勇敢な行動を見守った。

 

彼は、ビクビクおどおどしながら、おそるおそるリキヤくんに近づいていった。

 

だが、近くまでは行ったものの、なかなか声をかけようとしない。

 

何度も何度も、僕の方にアイコンタクトを送り、

 

「やっぱムリ!」

 

と、訴えてくる。

 

僕は、その訴えを華麗にスルーし、アゴをしゃくって彼を促した。

 

そうこうしているうちに、

 

クラスのアバズ…もとい女子と、下品な声を上げて談笑していたリキヤくんが、

 

沢勉に気づいた。

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そして、怪訝そうに、

 

「あんだよ」

 

と声をかけた。

 

突然、リキヤくんに話しかけられて、心の準備が出来ていなかった沢勉は、

 

「あうあうあう…」

 

と言葉にならない。

 

リキヤくんはいらいらして、

 

「なんか用かよ。言いたいことがあんなら、さっさと言えや」

 

と促す。

 

アバ…女子との会話を邪魔されて、リキヤくんはご機嫌斜めだ。

 

それでも沢勉は、

 

「あの…その…ええと…。」

 

と、しどろもどろだ。

 

その態度に、リキヤくんと話していたアバズレ(もういいや)が狂ったようにケタケタ笑う。

 

「やべー、なにコイツ。ちょーウケんだけど」

 

僕は、沢勉をバカにされて、

 

「うるせえわアバズレ。死ね!」

 

とイライラしながら小声でつぶやいて、

 

「沢勉、ガツンと言ってやれ!」

 

と遥かな安全圏から心の奥底で応援した。

 

そして、はっきりしない沢勉の態度に、業を煮やしたリキヤくんが、

 

「さっきから何だてめえ、おちょくってんのか!コラア!」

 

と怒鳴り散らしたその時、

 

「け、け、け、喧嘩上等~!」

 

ああ、なんて絶妙なタイミングで言ってくれたんだ沢勉。

 

完璧だよ。

 

君の死は無駄にはしない。

 

当然、リキヤくんは

 

「☆▼〇◇Ωξ♭√♂!!」

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と、我々一般人には理解できない難解な言語で激怒し、沢勉の胸ぐらをつかんだ。

 

この過剰反応は間違いない!

 

あいつこそ、我々が捜し求めていたヤンキーなる種族だ!

 

恐怖でパニックになりつつ、沢勉は持ち前の気の弱さと腰の低さを全力で発揮し、

 

「すいません!すいません!本当にすいません!」

 

と平謝りに謝り、なんとか無事に僕の所まで帰還した。

 

勇者沢勉の活躍により、リキヤくんがヤンキーであることは明白となった。

 

次は、いかにして彼に近づくかだ。

中学校でヤンキーに出会った(改)

どうしてこうなってしまったんだろう。

 

途中までは、うまくいっていたのに。

 

僕は、小学生の頃から、何の取り柄もない、ごく普通の少年だった。

 

いや、どっちかというと冴えないヤツだったと思う。

 

勉強はテストで0点を取ったことがあるし、駆けっこはいつもビリっけつだった。

 

得意なことといえば、町内のわんぱく相撲で、三位に入賞したことがある程度だ。

 

といっても、参加者十人程度のご近所の大会で、しかも三位どまりだ。

 

それに、運動会や体育の授業で、相撲を取る機会なんてないから、相撲の強さが評価される機会なんてない。

 

周囲からの評価は、「ただのデブ」だ。

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↑ こんな感じの。

 

太っているから、女子にモテることもない。

 

笑いをとってクラスを湧かせることが出来るタイプでもない。

 

それどころか、空気を読むことが苦手で、ウケ狙いで言ったことが、場の空気を凍りつかせてしまうことも多かった。

 

協調性もなく、集団行動に不向きで、そのうえ、人に従うことが大嫌いだった。

 

残念なエピソードなら、山ほどある。

 

運動会でフォークダンスを踊る時は、女子に露骨に嫌がられた。仕方なく踊ってくれる女の子にだって、汚いものを触るように、指の先っぽだけで手を繫がれた。

 

席替えの班決めの時は、いつも僕ひとりが余って、僕が入る班は、罰ゲームみたいにじゃんけんで決められた。

 

「僕の存在意義って、何だ?」

 

遠足でバスに乗るときも、僕の隣はいつも空いているか、もしくは、先生が座ることになっていた。

 

「だから、僕の存在意義って、何なんだ?」

 

惨めな思いをする度に、そう思っていた。

 

こんな状態だったから、チーム一丸となって甲子園をめざすような青春ドラマには、唾を吐きかけて育った。

 

女子にモテないひがみもあって、流行のラブソングなんてまったく共感することは出来ず、コンビニなんかで流れているのを聞くたびに、惨めな思いにさせられるだけだった。

 

中学生になっても、そんな冴えない人生が続くに違いない。

 

ずっとそう思っていた。

 

そんな時だった。僕があいつらと出会ったのは。

 

中学校に入学して、数日が過ぎた頃のことだ。

 

授業中に、沢勉が話しかけてきた。

 

沢勉とは、小学校の時はあまり同じクラスになることはなかったけれど、中学校では、運よく同じクラスになれた。

 

こいつも冴えないヤツだけど、唯一の友達が同じクラスで、少しは心強かった。

 

冴えないながらも、それなりに楽しい中学校生活を送ることが出来れば、それで十分だ。

 

「なあなあ、ショウくん、部活決めた?」

 

「いや、まだ決めてない。沢勉は?」

 

「僕は、本当は文化部に入りたいだけん、お母さんが、運動部に入ったほうが良いって言うだよ」

 

「ふーん、マザコンは素直だら」

 

沢勉は、僕の皮肉を受け流して続けた。

 

「だから、知ってる先輩がいる陸上部にしようと思うだよ。練習もあんまりきつくないって話だし。ショウくんも、決まってないなら陸上部にしん?」

 

「沢勉がいるなら、そうしようかやあ」

 

そんな、他愛もない会話をしていると、授業中の廊下を、数人の男が大声でわめいている声が近づいてきた。

 

「え、な、なんだ?」

 

沢勉は度胸がないから、もう動揺している。

 

クラスの皆も、ただならぬ雰囲気を感じ取っているようで、ざわめき始めた。

 

そうこうしているうちに、教室のドアが勢いよく開き、体格の良い男たちが三人、クラスに入ってきた。

 

それは、三年生の先輩たちだった。僕らとは形状の違う学生服を身につけ、髪型は、周囲を威嚇するようなリーゼントや、「北斗の拳」に出てくるザコキャラのような、ヒャッホーなモヒカンもどきの人もいた。

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「これが今年の一年たちかー」

 

と、にやにやしながらクラスの皆の顔を見回しはじめた。

 

沢勉は、既に青白い顔で、ドラクエアストロンにかかったように、カチンコチンになっている。 

 

授業中だから、当然先生が、

 

「コラア!お前ら!授業中だぞ!自分の教室にもどれ!」

 

と注意するが、

 

「うるせえよ、ハーゲ!」

 

などと言って、意に介さない。

 

確かにこの先生は禿げていた。

 

クラスの皆は、常日頃思っていても口に出せなかったことを言ってもらった痛快さからか、先輩達が恐ろしすぎて、ご機嫌を取ろうと思ったのか、はたまたその両方か、一斉に笑い出した。

 

僕は、先生が気の毒じゃないかと思ったが、気づいたら皆と同じように、

 

「アハハハー」

 

と、アホのように笑っていた。

 

沢勉も、青白い顔のまま、気持ち悪い表情で笑っている。

 

そんなクラスの空気に気をよくしたのか、先輩たちは、ポケットに手を突っ込んだまま、人をおちょくったような顔つきで先生の顔を覗き込み、

 

「ハゲ!

 

ハゲ!

 

おいハゲ!

 

ハーゲ!

 

ハゲちゃん!

 

ハゲてますかー!」

 

などと、先生の気の毒な身体的特徴を連呼した。

 

その後、先輩たちは先生を取り囲み、手拍子をしながら、

 

「ハーゲ♪

 

ハーゲ♪

ハーゲ♪

 

ハーゲ♪

 

ハーゲ♪

 

ハーゲ♪

 

ハーゲ♪

 

ハーゲ♪」

 

と呪文のように唱え始めたので、すっかりクラスは爆笑の渦に巻き込まれてしまった。

 

 いたたまれなくなった先生は、

 

「いいから、廊下に出なさい!」

 

と言って先輩の腕を取り、廊下に連れて行った。

 

「いてえな。触らんでや。ハゲがうつるじゃんか」

 

「かわいい後輩の顔見にきただけじゃんよ」

 

「あんま怒んなよ。ハゲが進むに」

 

悪びれる様子もなく、先輩たちは廊下へと出て行った。

 

クラス内では、ざわめきが収まらず、

 

「はー、チョーうけんだけど」

 

「先輩たち、マジおもしれー」

 

などと言い、特に女子なんかは、

 

「つかさー、あの短ランの先輩、かっこよくない?」

 

「ねー。それあたしも思ったー」

 

とキャピキャピし始める有様だ。

 

 沢勉は、モンスターが退却したことで、ようやくアストロンが解けたのか、

 

「はー、ど怖かったらあ、ショウくん」

 

と話しかけてきた。

 

だが、僕はさっきまでの一連の出来事に衝撃を受け、しばらくボーッとしてしまった。

 

「ど、どうしただ?ショウくん」

 

沢勉が、僕の顔の前で二、三度手を振り、僕はやっと気がついた。

 

「沢勉、あの先輩たち、なんなんだ?なんだかすごい格好をしてたけん。」

 

「え、何って、ヤンキーだら」

 

「ヤンキー?」

 

恥ずかしながら、中学生になるまで、僕は「ヤンキー」なる名詞を聞いたことがなかった。

 

「ヤンキーって何よ?」

 

「えー!なんと、ヤンキーを知らんのか。ヤンキーとは、裏の山の洞穴の奥に住み、毎年、日照りの時期になると、村で一番の娘をいけにえに…」

 

「いや、そういうのいいから」

 

「げ、げふんげふん。

 

ヤンキーってのはさ、要するに不良のことだに。

 

ああいう風に、普通とは違う格好をして、

 

タバコを吸ったり、

 

先生に反抗したり、

 

暴走族に入ったりして、

 

善良な人々に迷惑をかけることを得意とする、

 

怖い人たちなんだわ」

 

「悪い人たちなんだ?」

 

「そりゃあ、悪いでしょ。

 

あんな風に、先生に失礼なこと言ってるだもん。

 

授業も妨害したし」

 

「だけんさ、

 

なんかすごくないか。

 

先生に反抗するなんて。

 

しかも、そんなに面白いこと言ってやせんのに、

 

先生の体の欠点を唱えただけで、クラスを湧かせたし。

 

さらに、女子からキャーキャー言われてるじゃん」

 

「え、ああ。でも、先生がかわいそうじゃんか」

 

「それは確かにそうだけんさ、考えてもみい。

 

普通、クラスで人気者になったり、

 

女子にモテようと思ったら、スポーツが出来たり、

 

面白いことが言えんといかんじゃん」

 

「あー、まあねえ。勉強が出来ても、僕みたいに冴えないヤツはモテんしね」

 

「だろ?」

 

「だろって…ちょっとは否定してや」

 

「まあ聞いてや。

 

にもかかわらずだ。

 

先輩たちは、奇抜な格好をして、

 

授業を妨害して、先生に反抗して、

 

皆がいつも思っている先生の欠点を大声でがなり立てただけで、

 

あれだけの人気を得たんだわ!」

 

「はあ。そういわれれば…まあそうかも」

 

「それってすごいじゃんか!」

 

「へ?」

 

「普通は、すごい努力をして人気者になるのに、

 

あんなの、なんの努力もいらんじゃんか!」

 

「いやー、あの人たちだって、いろいろ大変だらあ?ケンカしたりさー」

 

「あんな簡単な方法があったなんて!なんで今まで気がつかんかっただかやあ!」

 

「ショウくん、聞いてるだ?」

 

「沢勉!」

 

「へ、何?」

 

「今日、学校が終わったら、至急、ヤンキーについて調べるか!」

 

「へ?い、いや、僕は塾が…」

 

まったく、頭が悪いとしか言いようがない。

 

今から思えば、先輩たちは、単に若さのエネルギーを持っていく方向を、全力で間違えているだけの「痛い人達」だった。

 

ただ、間違えっぷりが豪快なので、反抗期に入りつつあった僕には、とても眩しく見えたのだ。

 

彼らは、授業中に授業を受けず、自分勝手に校内をお散歩し、先生に堂々と反抗していた。

 

そんな様子が、もともと、空気を読むことが苦手で、人に従うことが嫌いな僕には、ぴったりの生き方に見えてしまったのだ。

 

沢勉はまったく乗り気じゃなかったが、その日は無理やり、塾を休ませた。

 

そして放課後、頭が悪い上に、思い込んだら猪突猛進まっしぐらの僕と沢勉は、さっそく、ヤンキーなるものの研究を始めた。

 

学校の図書室に入り、辞書を開くと、そこにはこう書いてあった。

 

 ヤンキー

 (もとアメリカ合衆国北部諸州の住民、特に、ニュー・イングランドの住民をいう)

 アメリカ人の俗称。

 

「沢勉、これはどう思う?」

 

「どう思うって、違うでしょ。どう考えても」

 

「そうだよな」

 

「確かに、先輩たちの中には金髪の人もいたけん、

 

彼らはどこからどう見ても東洋人だったよ」

 

沢勉の言うとおりだ。

 

どうやら、これは違う。

 

僕らは次に、ヤンキーの類義語を調べてみた。

 

不良

 品行の悪いこと。また、そういう人。

 

ぐれる

 わきみちへそれる。堕落する。非行化する。

 

愚連隊

 (「ぐれる」から出た語で「愚連隊」は当て字)繁華街などを数人が一団となってうろつき、不正行為などをする不良仲間。

 

わる【悪】

 わるい者。悪党。また、いたずらもの。

 

「なかなかいい線いってるんじゃないか?」

 

「無駄に古臭い言い方も混ざっているけんね」

 

それから、辞書を引いて調べたことをノートにまとめてみた。

 

すると、ヤンキーというのは、

 

アメリカのニュー・イングランドに住んでいて、

みんなで繁華街のわきみちへそれていく

品行の悪いいたずらもの。

 

ということになった。

 

これは、なんだか奇妙だ。

 

沢勉も、プルプルしながら笑いをこらえている。

 

「沢勉、先輩たちは、こんな愉快でユニークな感じじゃなかったぞ」

 

「そりゃそうだわ。みんなで繁華街のわきみちへそれるって、どんな風習だよ!」

 

「どうやら、辞書を引いただけじゃわかりそうにないな」

 

そこで、今度は当時流行していたヤンキー漫画を熟読することにした。

 

 沢勉が先輩や友達から借りたものを読んだり、近所の古本屋で立ち読みしたり、何冊かは自分で買ったりして、たくさんの参考文献を読破した。

 

 そのとき目を通した資料は、おおむね次のとおりだ。

 

特攻の拓

 

『カメレオン』

 

『人間凶器 カツオ!』

 

湘南純愛組!

 

『クローズ』

 

ろくでなしBLUES

 

今日から俺は!』

 

これらの漫画で描かれるヤンキー達は、ときどき卑怯なこともした。

 

しかし、友情の為には我が身をかえりみず敵に立ち向かい、弱きを助け、強きを挫く、男のなかの男達だった。

 

そのうえ、なにものにも縛られず、自由で、自分の意思を貫き通す強さを持っている。

 

協調性がなく、人に従うことが嫌いな僕には、本当にぴったりの生きかたに思えた。

 

頭が悪いうえに思い込みの激しい僕は、すっかりヤンキーなる種族に憧れ、

 

「男の中の男になるために、ヤンキーになるしかない!」

 

と、決意した。

 

もちろん、それらも所詮は漫画の中の話だ。

 

しかも、ストーリー中にもかなり非道なヤンキーが出て来たし、残酷でエグいシーンもあった。

 

だが、それらはほとんど悪役のすることだったため、僕のカラッポな頭の中では、あくまで「例外」としてインプットされたのであった。