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中学生が夏休みにヒッチハイクで一人旅に出た話

中学生がヒッチハイクで一人旅に出た話です。

ヤンキー社会の階級制度

旅に出るまでの経緯 中2の1学期
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 松岡くんに近づくことは、案外簡単だった。

 彼がヤンキーであることは、既に明らかとなった。

 そうであれば、おそらく彼も、ヤンキー漫画をいくつかは読んでいるにちがいない。

 そこで、まずその辺の話題から振ってみることにした。

 ある日の休み時間に、

「なあなあ、あのさー、松岡くんって、『湘南純愛組』って読んでる?」

 と、卑屈にならず、尊厳を保ちつつ、それでいてフレンドリーな調子を心がけて話しかけた。

「おー、読んでるよ。植田も読んでんの?」

 案の定、この手の話題に食いついてきた。

 そこから、他の話題にも話を広げていき、すっかり彼と仲良くなることに成功した。

 彼からは、僕らの中学校のヤンキー界について、様々な情報を教えてもらうことが出来た。

 

 彼によると、この中学校のヒエラルキーは、三つの階級で構成されている。

 当然、一番上が「ヤンキー」である。

 多くの「荒れた」中学校と同じく、僕らの中学校では勉強が出来ることは、生徒の間ではほとんど評価されない。

 そんなことよりも、どれだけ目立つ格好をするか、どれだけ先生に反抗するか、どれだけ授業をサボったり、タバコを吸うなどのパフォーマンスを発揮するかが重要だったし、そういう「ワルい男」が女子にもモテていた。

 反対に、一番評価が低く、女の子にもモテない階級が「ぼっけー」である。

 「ぼっけー」とは、要するに大多数の普通の真面目な生徒のことを指す。

 「ヤンキー」と「ぼっけー」、この二つが僕の中学校の生徒の大部分を構成していたのだが、実はそれらの間に、三つ目の階級が存在した。

その階級が「半ツッパ」である。

 「半ツッパ」は、文字通り「半分ツッパリ」という意味だ。

その名が表すとおり、彼らはグレるのか、グレないのか、まだ決心がつかないらしい。

そのため、ちょっと見ただけでは「ヤンキー」なのか「ぼっけー」なのかわからない服装をしていた。例えば学生服だが、彼らが身につけるのは、「中ラン」または「セミ短」のどちらかだった。

「中ラン」は、標準学生服よりも裾が少しだけ長く、本格的なヤンキーが身につける「長ラン」よりはかなり短い。

「セミ短」は、標準学生服よりも裾が少しだけ短く、ヤンキーが好む「短ラン」よりはだいぶ長い。こちらも、いまいち踏ん切りがつかない「半ツッパ」らしい服装だ。

これらの学生服を装備していると、先生方も違反なのか標準なのか一瞬では判断しかねて、見逃されることが多い。

 

このように、どっちつかずで少し格好悪そうな「半ツッパ」であったが、こんな階級にも利点があった。

第一に、あまりに微妙な格好なので、本格的な「ヤンキー」の陰に隠れて、先生に目をつけられにくい。

そのため、外見のせいで成績や内申書に影響することが少ない。

二つ目は、あまり目立った格好ではないので、怖い先輩方に、

「てめえ、生意気なんだよ!」

「調子こいてんじゃねえ!」

などと、シメられるリスクが低い。

 三つ目は、あまりに中途半端な階級なので「ヤンキー」とも「ぼっけー」とも仲良く付き合えることだ。

こうして僕は、元木くんからヤンキー社会の階級制度やルールについてレクチャーを受けた。

そして、まずは一番安全そうな「半ツッパ」からスタートを切ることに決めた。

 「半ツッパ」として活動しつつ実力をつけ、力のある先輩方が卒業した後、徐々に頭角を現す方が得だと判断したのだ。