何一つおもしろいこともない世界
実際のヤンキー社会は、マンガで読んだような男らしい世界ではなかった。
それどころか、みんな集団で行動していないと安心していられないような、臆病な奴らばかりだったのた。
すでに世襲によって序列が決定しているから、ケンカや抗争も起こらない。
とはいえ、いくらヤンキー貴族といえども、あまり調子に乗って威張りすぎると、反発はあるものだ。
だから、貴族ではないフツーのヤンキーは、なんとかしてヤンキー貴族をヘコましてやりたい。
しかし、表立って反抗したり、ボコッたりしたら、後が怖い。
そこで、あまり威張りすぎた奴や、仲間から嫌われたヤンキーは、皆からハブられるようになった。
本来なら、気に入らなければ正々堂々ぶちのめすのがヤンキーの流儀だろう。
だが、この中学校では、こういう陰湿な方法でヤンキー社会の秩序が保たれていた。
しかも、ハブられるターゲットは毎回変わるのだ。
そんな状況だったから、皆、いつ自分がハブられるかと、びくびくしながら、周りの空気ばかり気にしていた。
男らしいどころか、ものすごく女々しい世界だった。
もともと、僕は協調性がなく、人に合わせるのが嫌だった。
だから、自由にわがままに生きるために、ヤンキーの仲間入りをしたはずだった。
それなのに、憧れて入ったヤンキー社会は、まるで女の子の世界のように(女子には失礼かもしれないが)陰湿で生きにくいのだ。
そんなわけだから、こんな空気を読む生活には、嫌気が差すことも多かった。
でも、突然ヤンキーをやめたら、学校に居場所がなくなりそうだ。
だから、抜け出すことも出来なかった。
毎日、特にすることもなく、皆でどこかでたむろしていた。
先生や、真面目な生徒をからかったり、集団で町を闊歩して自分たちの存在を誇示したり、しょうもない悪さをするだけの、本当に、何一つおもしろいこともない世界だった。