孤立
手は出していないとはいえ、松岡に対してあんな態度をとったのだから、それなりの制裁は覚悟していた。
ところが、あれ以来、何日経っても、肉体的には、とくに痛い目に合うことはなかった。
彼らも、陰湿なやり方でヤンキー社会の秩序を保つ事に慣れすぎて、わざわざ喧嘩を仕掛けるモチベーションも湧かなかったのかもしれない。
だが、肉体的な制裁こそなかったが、精神的な制裁はあった。
授業中も休み時間も、口を利いてくれる人間がいなくなり、昼休みの弁当さえ、ひとりで食べることになった。
今までは、学校に登校する際も、下校するときも、ヤンキー連中で集まってから、集団で行動していたのだが、それも参加出来なくなった。
要するに、ハブられたのだ。
これは正直、キツかった。
今まで、ヤンキーの仲間内で、定期的に生意気な奴をハブることは何度もあったが、僕の場合はそれとは違う。
今までのものは、我慢していれば、そのうちターゲットが変わる一時的なものだった。
しかし、僕が受けたものは、ヤンキー社会からの永久追放だ。
それまで遊んでいた仲間からの、終わることのない村八分なのだ。
さらに、ヤンキー達とばかりつるんでいたから、この時の僕には「ぼっけー」の友達はいなかった。
だから、ヤンキー達からの孤立は、クラスや学校からの孤立を意味するのだ。
たとえば、席替えで新しい班を作るとき。
何かの授業で、ペアを作らなければならないとき。
遠足や課外授業で、バスの座席に座るとき。
こうした時間が、僕にとっては地獄となった。
もともと、協調性がなく、空気を読むのが嫌いな僕とはいえ、これはこたえた。
あまりにキツくて、学校という場所、学校にいる人間が大嫌いになった。
そんな状況でも、情けない顔を見せたりしたら、余計に自分が惨めになる。
だから、休み時間にはいつも、大また開きで椅子に座り、腕組みをしながら、ことさら不機嫌な顔をして、ブルーハーツを聞いていた。
それが、唯一孤独から自分を守る方法だった。
「なにも自分から選んだ学校じゃない。勝手に学区を決められて、仕方なく出会った人間たちが、たまたまクソッタレどもだっただけで、何でこんな思いをしなきゃいけないのか。本当は、俺にとってベストな場所が、どこかにあるんじゃないだろうか。」
そんな風に考えて、必死で自分を守っていた。