変化
夏休みの研究で金賞を受賞してから、僕の周りに少しずつ変化が起き始めていた。
職員室の前の廊下に展示された、僕の旅日記の周りには、いつも黒山の人だかりが出来ていた。
みんな、
「すげえー」
「マジで?」
と口々につぶやきながら、僕の旅日記を読んでくれているようだ。
僕は、リキヤたちヤンキーグループにハブられてからというもの、クラスからも孤立していた。
新学期になっても、そうした状況は、あまり変わらないだろうと覚悟していた。
ところが、旅日記が生徒達の間で話題になるにつれ、クラスの人たちから、
「田中くん、本当にヒッチハイクで旅しただ?」
「旅の話、聞かせてやー」
などと、声を掛けられるようになった。
男子だけでなく、全然話したこともない女子達からも、
「田中くん、旅日記読んだよー」
「すごいねー」
と話しかけられるようになり、昔から全くモテなかった僕は、めちゃめちゃテンションが上がってしまった。
クラスから孤立していた僕だったのに、旅から帰ってきた今では、いろんな人に話しかけられて、旅の話をするようにせがまれた。
休み時間が来るたびに、僕の席の周りに人だかりが出来、ヒッチハイクの話をいろいろと聞かれ、僕は喜んで旅の話をした。
そうこうするうちに、自然と、ヤンキーではないぼっけーの友達が増えていった。
さらには、ただ廊下を歩いているだけで、隣のクラスの話したこともない人に声をかけられたりもして、僕はちょっとしたヒーロー気分だった。
旅に出る前は、学校に行くのが苦痛でしかなかったのに、いつしか学校に行くのが楽しみになっていた。
小学校の頃から、友達が少なく、人と話すことが苦手な僕だったが、旅日記のおかげで、周りの皆から話しかけられるようになった。
しかも、旅の話ばかりどんどん質問されるので、話すネタに困ることもなく、話下手な僕でも、皆とコミュニケーションを取ることが出来た。
リキヤたちも、そうしたクラスの状況を見てか、僕をことさらにハブることはなくなり、時々話しかけてくるようになった。
心の中では、まだ奴らを許してはいなかった。でも、わざわざ事を構えてもメリットはないだろうから、グループには戻らなくても、適度に接するようにはした。
展示が終わった頃、保健室の先生が話しかけてきた。
「田中君、あの旅日記、少し貸してくれない?」
この先生には、旅に出る前に【緊張を和らげる方法】の実験でお世話になった。
僕はもちろん、
「ああ、はいはい。全然いいっスよ」
と、二つ返事で応じ、先生に旅日記を貸し出した。
すると、その先生から、さらに他の先生方や友達の間で、僕の旅日記が回し読みされるるようになった。
学校だけでなく、保護者たちの間でも、僕のヒッチハイクの話はすっかり有名になってしまった。
そうした中で、先生方が僕を見る目も変わってきた。
以前の僕はといえば、まじめな生徒でもないが、とくに目立つ不良少年でもなく、成績優秀なわけでも、スポーツ万能なわけでもない、微妙な生徒だったと思う。
しかし、ヒッチハイクの旅をしたことで、
「田中という面白い生徒がいるらしい。」
という風に認識されるようになったようだ。
それどころか、僕の体験に興味を持った学年主任の先生に、
「君の体験を、全校集会で話してくれないか?」
と、頼まれたことさえあった。
全校生徒の前で発表するのは、さすがに緊張するので断ったが、その後も同じような依頼が続いた。
結局、小さな公会堂で、地域の人々を相手に講演をさせられることになった。