大きな変化
修学旅行が終わり、またいつもの学校生活が始まった。
僕は旅館での一件以来、もしかしたらゴツオからの仕返しがあるかもしれないと、一応用心していた。
そんなあるとき、放課後の廊下でリキヤに声を掛けられた。
リキヤは、今やこの中学校の番格になっていて、リーゼントに長ランを身につけ、胸には金ボタンを輝かせていた。
僕は、案の定、仕返しに来たのかと思い、顔を強張らせた。
―こいつが出てきたのか。とすると、この学校の全ヤンキーを敵に回すことになるな。
最悪のことを考え、少し不安になった。
しかし、奴の口調は、けっしてケンカ腰ではなかった。
「タナカよお、ゴツオのこと、怒ったんだって?」
僕は、あまりの物腰の柔らかさに、拍子抜けして、
「あ…ああ、そうだよ。大人しい普通の奴に、変な因縁つけてたから、頭にきてさ」
と言った。
奴は、おもむろにタバコに火をつけ、一服し始めた。(ちなみにここは廊下だ!)
わかっている。こいつは演出でこれをやっているのだ。
そして、十分もったいぶってから、
「ふうん。そっか。まあ、ゴツオも悪い奴じゃないから、許してやってくれや」
と、やはり優しい口調で言った。
僕は、正直うんざりし過ぎて、胸焼けがしてきた。
こいつは、学校で有名になってしまった僕を集団で締め上げるのが面倒くさいのと、そんなことやってもメリットはないことをわかって、逆に僕とゴツオの仲裁をすることで、双方の顔を立ててやり、「争いを未然に防いだ番長、リキヤくん」を演出しようとしているのだ。
―結局、こいつはいつまでもこういうことをやって、生きていくんだろうなー。
中学校生活ももうすぐ終わりだし、リキヤは卒業したら鳶職になって働くから、もう関わりあうことはないし、もう、何も怖くなくなった。
「な、ここは俺の顔を立ててさ。悪いようにはせんで」
僕は、威厳を保ってタバコをふかしているリキヤに対して、満面の微笑みを浮かべながら、思いっきり中指を立て、
「うるせえ」
と言ってやった。
人生で三本の指に入る、痛快な瞬間だった。
そのときも、それからも、僕はヤンキー達の襲撃を受けることはなかった。