中学校でヤンキーに出会った
僕が、ヒッチハイクの旅に出たのは、中学校での出来事がきっかけだった。
地方の公立の中学校ならどこでもそうなのかもしれないが、僕が通っていた中学も、ご多分に漏れず「荒れた」中学校だった。
入学してすぐのことだ。
1年生の教室に3年生の怖い先輩たちが四、五人入ってくることがあった。
授業中にもかかわらず、なにやら騒ぎ立てながら入ってきた。
当然先生が、
「こらー!お前ら!授業中だぞ、教室にもどれ!」
と注意した。
しかし、先輩たちは、
「うるせえよ!このハゲッ!」
「かわいい1年生の顔を見に来ただけじゃんかよーう。」
などと言って、意に介さない。
彼らは、1年生の僕らからすれば体もかなり大きかった。
それだけでも十分怖いのに、短ランやボンタンを身につけて、さらに自分を大きく強そうに見せていた。
そのうえ、髪を逆立てたり、金髪やリーゼントにしていたので、恐怖100倍だ。
そんな3年生の姿を見て、
「うおお、こえぇっ…!」
と思いつつ、
「あんな風に先生に反抗できるなんて、ちょっとカッコイイな。」
などと、ほんのり憧れの思いを抱いてしまった。
頭が悪いとしか言いようがない。
今から思えば、彼らは単に若さのエネルギーを持っていく方向を、全力で間違えているだけの「痛い人達」だった。
ただ、間違えっぷりが豪快なので、反抗期に入りつつあった僕には、とても眩しく見えたのだ。
結局、1年生の何人かをいじったりして、ひとしきり授業を妨害し終わると、彼らは満足したように帰っていった。
彼らの格好と行動に衝撃を受けた僕は、隣に座っている少年に、彼らは一体何者なのかと尋ねた。
その少年によると、どうやら彼らはヤンキーというらしい。
その日の放課後、頭が悪い上に思い込んだら猪突猛進まっしぐらタイプの僕は、家に帰るとさっそくヤンキーなるものの研究を始めた。
辞書を開くと、そこにはこう書いてあった。
ヤンキー
(もとアメリカ合衆国北部諸州の住民、特に、ニュー・イングランドの住民をいう)
アメリカ人の俗称。
どうやら、これは違う。
確かに、先輩達の中には金髪の人もいたが、彼らはどこからどう見ても東洋人だった。
僕は次に、ヤンキーの類義語を調べてみた。
不良
品行の悪いこと。また、そういう人。
ぐれる
わきみちへそれる。堕落する。非行化する。
愚連隊
(「ぐれる」から出た語で「愚連隊」は当て字)繁華街などを数人が一団となってうろつき、不正行為などをする不良仲間。
わる【悪】
わるい者。悪党。また、いたずらもの。
それから、辞書を引いて調べたことををまとめてみた。
すると、ヤンキーというのは、
アメリカのニュー・イングランドに住んでいて、
みんなで繁華街のわきみちへそれていく
品行の悪いいたずらもの。
ということになった。
これは、なんだかおかしい。
先輩たちは、こんな愉快でユニークな感じではなかった。
どうやら、辞書を引いただけではわかりそうにない。
そこで、今度は当時流行していたヤンキー漫画を熟読することにした。
友達に借りたり、近所の古本屋で立ち読みしたり、何冊かは自分で買ったりして、たくさんの参考文献を読破した。
そのとき目を通した資料は、おおむね次のとおりだ。
『特攻の拓』
『カメレオン』
『人間凶器 カツオ!』
『湘南純愛組!』
『クローズ』
『今日から俺は!』
これらの漫画で描かれるヤンキー達は、ときどき卑怯なことやスケベなこともした。
しかし、友情の為には我が身をかえりみず敵に立ち向かい、弱気を助け、強気を挫く、男のなかの男達だった。
そのうえ、なにものにも縛られず、自由で、自分の意思を貫き通す強さを持っている。
協調性がなく、人に従うことが嫌いな僕には、ぴったりの生きかたに思えた。
頭が悪いうえに思い込みの激しい僕は、すっかりヤンキーなる種族に憧れ、
「男の中の男になるために、ヤンキーになるしかない!」
と、決意した。
もちろん、所詮は漫画の中の話だ。
しかも、ストーリー中にもかなり非道なヤンキーが出て来たし、残酷でエグいシーンもあった。
だが、それらはほとんど悪役のすることだったため、僕のカラッポな頭の中では、あくまで「例外」としてインプットされたのであった。