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中学生が夏休みにヒッチハイクで一人旅に出た話

中学生がヒッチハイクで一人旅に出た話です。

千羽鶴事件②

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みんなのこうした悪ふざけは、次第にエスカレートして、紙飛行機どころか、棒を作ってチャンバラごっこに興じる奴や、ボールとバットを作って野球を始める奴らも現れた。

休み時間にやってるだけならまだ可愛いものだが、ヤンキー連中には時間の概念が理解できなかったようで、授業中まで折り紙で遊びほうけていた。

さすがに、これは問題となり、学年集会が開かれることになった。

「リョウくん、どうしよう。僕も紙飛行機折っちゃったから、やっぱ怒られるかねえ?」

沢勉は、普段怒られることとはまったく無縁の学校生活を送っているので、すっかり萎縮してしまって、顔面蒼白だ。

僕はといえば、

「ていうか、折り紙で自分の創意工夫を試すことが、そんなにいかんことかねえ」

と、まったく腑に落ちなかったので、たとえ謝れと言われても謝るつもりは毛頭なかった。

体育館で集会が始まると、竹刀を持ったコワモテの、筋肉バカ丸出しのクズ体育教師が現れた。

こいつは、常に生徒達に対して高圧的で、偉そうなことばかりぬかしており、僕は大嫌いだった。

こちらが子供で、あっちが大人ってだけで、何でいつも偉そうにされないといかんのか。

僕らが大人になって、あいつと同じくらいの年齢になったら、僕らの方がはるかに高いパフォーマンスを発揮しているかもしれないじゃないか。

いつも怒鳴られるたびに、そう思っていた。

奴は、壇上に上がり、大声で怒鳴り散らした。

「ここにいるほとんどの生徒は、まじめに、平和を祈って折鶴を折ってくれていることと思う。今までに折られた鶴の数は、すでに数万羽にも及んでいる。これは、本当にすばらしいことだと思うし、先生はみんなのことを誇りに思う。だが、この中に、そんなみんなの気持ちを踏みにじるとんでもない人間がいる!全校はおろか、保護者や地域のみなさんにも協力してもらい、一生懸命集めた紙を、飛行機にして飛ばすわ、チャンバラをはじめるわ、授業を妨害するわと、好き放題やっている!こうした一部の人間が、この中学校の雰囲気を乱している!なあ、お前らは恥ずかしくないのか!お前らはなあ、平和を祈るみんなの気持ちだけでなく、被爆者の方々や、戦争で苦しんでいる人々の、平和への思いまで踏みにじったことになるんだぞ!いいか、少しでも反省しているんなら、今、ここで、自分から申し出ろ!」

 クソ体育教師が怒鳴り終わると、体育館はシーンと静まり返った。

 僕は、このクソの発言に、内心ものすごくイライラしていた。

たしかに、皆が頑張って集めた紙を使って紙飛行機を飛ばしたのは、2ミリぐらいは悪かったと思うし、反省もしてるよ。テンションが上がりすぎて、チャンバラや野球まで始めた奴らは、たしかにやりすぎたら。でも、それは中学生特有の遊び心が全力で発動しただけのことだし、みんなそれほど悪気があってやったわけじゃないら。百歩譲って悪いとしても、皆で決めた目標を共に達成しようと熱心にならなかったことや、紙を無駄遣いしたこと、ばかヤンキーどもが授業妨害しちゃったぐらいのことだら。みんなが折った折鶴をくしゃくしゃに潰したとか、燃やしたとか、切り刻んだとかいうならまだしも、少しばかり、いたずらが過ぎてふざけてしまっただけの人間を、平和に対する悪の権化のように言うとはなんだ。誰も被爆者の人達を茶化すような気持ちでやったわけじゃないのに、論理の飛躍も甚だしいじゃないか。反対に、休み時間に楽しく折鶴をたくさん折ってたくらいのことで、そいつらが聖人君子のように扱われるのもどうかと思うわ。

考えていたら、どんどん怒りが込み上げてきた。

 体育館は、まだ静けさに包まれたままだった。

 痺れを切らした、あのゴミクソは、調子に乗って、

「どうしたあ。お前ら、それでも男か!自分のケツも自分で拭けんのか!」

と偉そうにほざき始めた。

こいつは今、自分を正義の化身のように考えて、偉そうに生徒達を怒鳴りつけることで、快感を感じ始めているのだ。

僕は、怒り心頭に発して、

「ケツぐらい自分で拭けるわボケエ!」

と立ち上がった。

 しおらしくうなだれて反省しているように、ゆっくり立ったら、本当に悪いことをしたように見えるので、あえて勢いよく立った。

 そして、オリンピックの表彰台で金メダルを受け取ったアスリートのように、あえて胸を張って立ってやった。

 そのまま、勢いでこうまくしたてた。

「先生は、僕達が休み時間にあまり鶴を折らず、紙飛行機ばかり作っていたことを、ただ遊んでいただけと思っているようっスね。そして、平和への思いを胸に鶴を折り続ける生徒達がいる一方で、遊んでばかりいるのはけしからんと。それから、そんな奴らは、世界から戦争をなくし、平和を願おうとする人々の思いを踏みにじるものだと決めつけてらっしゃる。でも、それは誤解というもんスよ。僕らは、単に遊びで紙飛行機を作っていたわけじゃないんです。僕らは、紙を使って、完成度の高いB‐29爆撃機「エノラ・ゲイ」を製作しようとしていたんです。そして、それを以て広島への原爆投下に対して痛烈な批判を加えようと思っていたんスよ。折鶴と一緒に、エノラ・ゲイが手向けられていたら、これほど戦争を皮肉ったコントラストはないじゃないですか。つまり、僕達も平和を願う気持ちはみんなと同じってことです。なんら非難される筋合いはないっスよ。」

 僕は、

口からでまかせってこのことだなあ。

 と思いながら、人とコミュニケーションを取ることすら苦手だった僕が、全校集会でよどみなくウソを並べ立てていることに、ほんのり自分の成長を感じていた。

 クソ体育教師は、僕の語った崇高な志を理解出来なかった様子で、アホのようにポカンと口を開けていた。

先生方も生徒たちも、ぬけさくのようにポカンと口を開けていた。

 どうやら、先生方は、僕が紙飛行機を飛ばしたとは思っておらず、ヤンキー達をこってり絞ることが目的だったようだ。

そのうえ、このクソ体育教師は僕の旅日記を読んで修学旅行先を広島に変更したうちの一人だったので、

「いや、あの、君に立たれちゃうと困るんだけど…」

みたいな空気になってしまった。

 しばらくアホみたいな顔を続けたあと、クソ体育教師は元のコワモテに戻り、

「あー、うん、ゲフンゲフン!まあ、その、なんだ。お前のやろうとしたことは理解できるが…あれだ、世の中の人には、そういう変化球みたいのは、誤解される恐れもあるからな。まあ、今回は皆で鶴を折ろうということになっているんだから、勝手なことは、ちょっとイカンよな。うん。えー、はい。ほかにもー、なー、いるんじゃないか?田中みたいな動機からじゃなくって、ただ悪ふざけししてしまった奴が」

と、やや苦しいお説教を垂れた後で、起立を促した。

 隣のクラスの列から、沢勉は、おどおどした顔で、僕の顔色を伺っていた。

―え、ぼ、僕も立たなきゃダメ…かねえ…?

 その顔は、こう問いかけているようだった。

 僕は、

―そんなの知らんわ。自分が立ちたいと思ったら、勝手に立ちゃあいいじゃんか。

 というように、心の中でエスペラント語でつぶやいた。

 結局、沢勉はもじもじしながら立ち上がった。

 それをみて、体育教師は、

「うそーん」

という顔をしていた。

 立ち上がっているのが、ヒッチハイクの旅に出た僕と、学年でも一、二を争う秀才の沢勉だったので、先生方の筋書きは完全に崩壊してしまったようだ。

しばらくして、ヤンキー達がしぶしぶ立ち上がり始めた。

 みんな、面倒くさそうな顔をしていた。

 そのあとは、なんだか変な空気になったまま、体育教師が適当なお説教をして、フワーッとしたまま集会が終わった。

 ここでも、僕は思いっきり空気を読み違えていた。

でも、この頃になると、空気を読まずに自分の気持ちを貫き通すことが、しだいに快感になってきた。

それとともに、普段は「個性が大事!個性が大事!」と唱えている教師達が、いざ生徒が個性を発揮し始めたときには、全力でそれを矯正しようとすることに、強い反発を感じていた。

これは、きっと学校だけじゃなくて、日本全体を覆っている雰囲気なんだろう。

そんなつまらない社会の中で、どうやったら、矯正に従わずに、自分を貫き面白おかしく生きていけるだろうか。

そんな生き方をも、模索し始めていた。